「震災でお蔵入りになっていたCMが凄いらしい」という趣旨の情報を625日頃のネット上のニュースで見つけた。なんでも海外で評価され、広告賞をとったそうな。「ふ〜ん」。で、何の気なしにクリックし、予備知識もなく3分ほどの動画を見た。その後、同じ動画を立て続けに何度も繰り返し見た。恥かしながら涙が止まらなかった。まったく初めての感覚であった。映像は単に九州の人々が開通した新幹線に向かって笑いながら手を振っているだけである。ただそれだけなのだ。(http://www.youtube.com/watch?v=UNbJzCFgjnU)余りにも泣いてしまうので「年のせいか」と思いつつも、少し落ち着いてからこのCMによりもたらされる感覚の素を自分なりに分析してみた。

「あの日、手を振ってくれて有難う・・・」集まってくれた人々に感謝の気持ちを表わすナレーションの素直さに感銘した? しかしナレーションが入るずっと前から俺は泣いてるぞ。

 BGMに心を動かされた? 誰が歌っているのか知らないし、歌詞の意味もよく分からん。でも活気あふれるこの音楽の効能は幾らかあるのかも・・・。

考えるに、どの程度の規模で行われたかは知らないが、撮影に先がけてCM収録の案内や趣旨説明などが制作者側から九州の人々に対してあり、また撮影当日の現場でも関係者による指示や指導、禁止事項についての注意など諸々演出的なことはあったと想像される。

「撮影日に沿線に集まって手を振ってください」とのCM制作者の呼びかけに喜んで応じる従順さ、九州の人々が新幹線に抱いている期待とそれをストレートに表現する無邪気さ、はたまた九州人の結束力の強さに感動したのか?「新幹線」という技術に対する称賛の念? いやいや新幹線自体は日本では半世紀近く前から走っているお馴染みの乗り物だ。もはや涙が出るほどには珍しくない。

沿線に集まってパフォーマンスする人々の中には開通を喜ぶという気持ちに加え、話題性を利用する商業的な思惑のほか、単に目立ちたいという自己顕示欲にまかせて張切った人もいたかも知れない。しかし出来上がったこのCMを見て「元気が出た」「楽しい映像なのに何故か涙が出た」などと多くの人が感想を述べている。

いろいろと考えた末、やがてひとつの(個人的で勝手な)理解に辿り着いた。

 感涙の要因はCMに使われている映像や音楽やナレーションそのものの中には少なく、むしろそれを見る側の自分自身の中により多く存在するのだと。

撮影したカメラマンの一人は撮影時を振り返って「(新幹線が)走りだしてすぐに、ジーンときた」とコメントしている。新幹線に向かって笑顔で懸命に手を振る人々を車中に据えたカメラで撮影したとのこと。カメラマンはカメラ越しに沿線に連なる彼らと向かい合っていた。ファインダーに映る彼らはすべて自分に向かって手を振っているかのようにカメラマンには見えた筈だ。CMを見る者はカメラマンが見た映像とまったく同じものを見ることになる。従って撮影カメラマン同様、視聴者にとってはまるで自分に対し、見知らぬ多くの人々が次々と笑顔で応援してくれているかのように見えるだろうし、そう錯覚するのも無理はない。

人というものが応援されると頑張ろうと思うものであれば、この錯覚は心地よく、嬉しくもありそして感激的であるに違いない。見知らぬ人から、しかも数え切れぬ人々から一どきに応援される機会は、スポーツ選手やタレント、政治家などを除けば、普通の一般人には無いのだから。また、はなから頑張る気の無い人、逆に既に充分頑張っている人から見れば「面白いCMだな」程度のものなのかも知れない。しかし、これから頑張らねばと思っている人、頑張るべきなのにあんまり頑張っていない自分を認識している人にとってこのCMは、無邪気で快活にサポートしてくれる感謝すべき「強烈な応援団」に映ってしまうのではないか。

子供の教育方法を考える上で「叩いて(厳しくして)伸びる子と褒めて伸びる子」というのがあると聞いたことがある。大人であっても余程ひねくれた考え方をする人でなければもっぱら厳しい批判を受け続けるよりも、応援してもらえれば嬉しく思い、心強く感じることであろう。その結果、実力以上の力が発揮できることもある。

将来を見通すに、ただでさえ閉塞感を否定できない日本において、重ねて起こっている今現在の大きな災難を日本人は越えていかなければならない。そうであるならば、このCMがその効果を示してくれたように、我われも我われのリーダーを一度、一所懸命手を振って応援してみてはどうか。もし彼が我われと同じ感性の持ち主であれば、そして人からの応援を有難いと思う感性が鈍ってなければ、涙を流しながら「頑張ろう」と思ってくれるだろう。

 それとも「既に充分頑張っているから」と軽く受け流されるだろうか。   (2011.6.27



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